「本屋さんに並んでいる本」が好きな理由は、肥大した自己愛や、過剰な自意識や、被害者意識むきだしの自己憐憫がきちんと「調理」されて美味しい料理みたいになって、きれいに盛り付けされて並んでいるから。
SNSを見過ぎると何だか疲れてしまうのは、単なる情報過多というよりは、「調理されていない、土がついたままの生野菜」みたいな言葉を摂取しすぎて、脳が消化不良を起こしてしまうからだと思います。
その点、本屋さんに並んでいる本は安心安全です。
プロの読み手によって選別されたテキストが、誤字脱字のない状態で、外国語はプロの翻訳者によって正しい文法の平明な日本語に変換されて、きれいな表紙が巻かれて値段のついた商品として陳列されています。
味の好みはそれぞれあると思うけれど、どれもプロがつくったある程度の品質と価値が保証されたものであるという安心感は多大。
生きていると理解の範疇を超えた事件や事故や微細な人間関係のトラブルが続発して困惑することも多いですが、うずくまって泣いていても一つも解決しないので、遠回りみたいだけど一冊ずつ本を読んで、一本ずつ映画をみて、「私じゃない他者」の世界を受容する余地を地道に広げていくのが、結局は健やかな生活への近道だと思っています。
やったねノーベル文学賞。
私やあなたが簡単につぶやく「好き」も「嫌い」も「つらい」も「楽しい」も「死にたい」も「死にたくない」も、100年も200年も前にどこかの誰かが文章にして残してくれている世界の頑丈さに救われますね。