午後の静寂を破るインターホンの音。
宅配便です。1メートル四方、厚さ10センチほどの巨大な段ボール箱が届きました。
宛名は夫。
送り状の品名には「ポスター」と記載されています。
先ごろ、好きな作家の企画展を見るために京都まで一人旅に出掛けた夫。
ミュージアムショップでポスターを購入し、壁掛け用に額装してもらったものが届いたようです。
だがしかし。
我が家にこのような巨大な装飾品を置く場所はありません。
いえ、そこらじゅうに空いているスペースは大量にあるのです。
でも、そこにはすでに「空白」という宝が存在しているのです。
追加の装飾品を設置するために貴重な「空白」を手放すという選択肢は、よほどのことがない限り採用されません。
「置く場所がない」を正しく言い換えるならば「余計な装飾を追加する意思がない」と言うことです。空白の保存に関するラムサール条約のようなものです。
しかし…
家を購入する際に「余計な持ち物を置かないライフスタイル」については夫も合意していたはず。それなのに突然に届く巨大な段ボール箱。
夫婦の信頼関係にヒビが入りかねない由々しき事態です。
悶々とした数時間を過ごした後、夫が帰宅しました。
靴も脱がずに、玄関の段ボール箱を外に運び出しています。
どうやら夫はポスターの額装を、最初から家族が暮らす室内ではなく、自分専用のガレージに飾るつもりだったようです。
「置く場所がない問題」は、私の杞憂に終わりました。
そして夫婦の信頼関係はひとまず維持されました。
ミニマルに暮らしたい私と、趣味の品を飾りたい夫。
志向の異なる二人の「緩衝地帯」となっているのが、和室をつくる代わりに設置した夫専用のガレージです。
3畳ほどの狭い空間ですが、古いバイクを置いたり好きなガンダムのフィギュアを飾ったりと夫の「個人的な趣味のスペース」として自由に使ってもらっています。
家の中はミニマルを維持させてもらう代わりに、ガレージについては私はノータッチとしています。
捨てたい妻への理解が深い夫には感謝しかありません▽
これからも外付けガレージを緩衝地帯に、私のミニマル志向と夫の趣味を両立させながらできれば円満に過ごせたら良いなと思う次第です。
私にとってのゴミは、あなたにとっての宝で、その価値観が交わることは永遠にないかも知れないけれど、それはそれとして最良の着地点を探りながら過ごせたら良いですね。
私にとってはどんなにゴミでも、あなたにとっての宝を勝手に捨てたりはしないから、どうか私の見えない場所で、あなたの宝を自由に愛でてほしいと思うの。
明日も愉快な人生を〜