収納しないブログ

持ち物を減らして収納術不要の暮らしを目指しています

「死」を手のひらに乗せて、齧ってみる。

才能ある他者の感受性と彼らが発する言葉に助けられて生きている、収納しない系お片付けブロガーの優多(ゆた)です。

 

思い煩うことなく日々を愉快に生きるために必要な「死の恐怖を和らげてくれるマイコレクション」が、また一つ増えました。めでたい。

鳥さんの瞼さんの第一歌集「死のやわらかい」(点滅社/1,650円税込)です▽

全編を通じて「死」をテーマにした歌が並びますが不思議と悲壮感はなく、むしろ暖かく柔らかく静かでユーモラス。「死」を枕にして寝転がっているような、あるいは、「死を見つめる自分」を、もう一歩高い視点から俯瞰しているような、不思議な心地よさ。

 

秋の終わりの涼しい夜に、体にふんわり巻きつけていたい、薄手で肌ざわりの良いカシミヤの毛布みたいな歌集です。

 

「死」は見えなくて、わけが分からなくて形がない故に、私たちの不安の原因になります。

「死」は怖いものでも優しいものでも敵でも味方でも平等でも不平等でも善でも悪でもなく、いつでもただ、私たちのすぐ隣にあるもの。いつか必ずしかもしばしば突然にやってくるもので、誰も逃げることはできません。

「鳥さんの瞼」は、形のない「死」を手のひらに乗せて匂いを嗅いで、齧って口の中で転がして「観察」して、そして「考察」して、短歌という方法で形を与えているように思います。

 

「形が与えられていること」は、不安の解消にとても役立ちます。

「人間は誰もがいつか必ず死ぬ」と知った5歳の日から、私は恐怖を和らげてくれるものを集めて過ごしています。「死ぬときに隣にあったらいいな」と感じられる、美しくて楽しくて優しくて肌触りが良くていい香りがするものを、心のなかにいくつも集めておきたいと思っています▽

yuringo738.hatenablog.com

歌集「死のやわらかい」は、そんな「死ぬときに隣にあったらいいなと思うもの」の一つになりました。

好きな歌を以下に引用させていただきました▽

期限切れ卵がこんなに残ってて私は生きるつもりだったね

(「死のやわらかい」8頁より)

…冷蔵庫で静かに座っている白くてまるいエッグズへの、そして意欲のあった過去の自分への温かな目線を感じます。

 

死んでからはじめて体が真っ直ぐになったと知らない海老の天ぷら

(「死のやわらかい」12頁より)

…生き物としてのエビ。死後に調理され、ピンと背筋を伸ばして姿勢を正された食材としてのエビ。私は「死んだ後のことなんて考えても仕方ないよね」とポジティブに解釈しました。

 

選ばれて死んださかながもう一度選ばれなくて死んでいく今日

「死のやわらかい」76頁)

…広義的な意味で生き物の「死体」を保管する場所である冷蔵庫は、作者にとって「死」を想起させる場所なのかもしれませんね。生き物の死体、それはそれを食べる人間にとっては命をつなぐ栄養なのだけれど、食べなければ腐ってしまうやはり死体です。

 

そして、「鳥さんの瞼」というペンネームとの関係もあるのでしょうか。鳥にまつわる短歌が多く収録されています。

会うことのなかった四羽の心臓が一つに刺されて完成している

(「死のやわらかい」6頁より)

…皿に置かれた焼き鳥の串を詠んでいらっしゃるのですね。

焼き鳥。好き▽

yuringo738.hatenablog.com

「歌集ってあんまり読まないよ」という人もダイジョーブ。

作品を味わう道標として「栞」が挟まれています▽

歌人の岡本真帆さん、林あまりさん、東直子さんの三人が、それぞれの琴線に触れた歌をピックアップして解説してくれています。

 

いつも隣にある「死」を思いつつ、でも無闇に恐れずに、手のひらに乗せて考察する視点を忘れずに、できれば思い煩うことなく楽しく生きていけたらいいね。

 

明日も愉快な人生を〜