収納しないブログ

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「ピンとこない」の、傲慢さ。

収納しない系お片付けブロガーの優多(ゆた)です。

 

2月4、11の両日に放送されたフジテレビの番組「ザ・ノンフィクション 結婚したい彼と彼女の場合〜令和の婚活漂流記2024」が大変話題でした。

ので、少し前に読んで大きな衝撃を受けた婚活ミステリの傑作「傲慢と善良」(辻村深月著/朝日新聞出版)を紹介させてください。

婚約者・坂庭真美が忽然と姿を消した。その居場所を探すため、西澤架は、彼女の「過去」と向き合うことになるー。彼女は、なぜ姿を消したのか。浮かび上がる現代社会の生きづらさの根源。圧倒的な支持を集めた恋愛ミステリの傑作が、遂に文庫化。

(「傲慢と善良」文庫版の裏表紙より引用)

カバーに「恋愛だけでなく生きていくうえでの痛み、あらゆる悩みに答えてくれる物語」と謳われている通り、自分自身の中にある肥大した自己愛や傲慢さを突きつけられていたたまれない気分になりながら、他者と向き合うこと、自分の人生を引き受けて「選ぶ」ことのヒントが散りばめられています。

 

実用書ならともかく、小説を読みながらページの角を折る、ということはあまりないです。けれど、この作品はとにかく「刺さる」言葉が多すぎて何箇所もドッグイヤーしてしまいました。

 

以下、ネタバレに気を付けながら特に刺さった言葉を引用します。

自分の個性を見せるための婚活であるはずなのに、没個性の方が話が進むのは皮肉なことだが、ともかくそういうものなのだから仕方ない。(110頁)

「皆さん、謙虚だし、自己評価が低い一方で、自己愛の方はとても強いんです。傷つきたくない、変わりたくない。ー(略)」(133頁)

「ささやかな幸せを望むだけ、と言いながら、皆さん、ご自分につけていらっしゃる値段は相当お高いですよ。ピンとくる、こないの感覚は、相手を鏡のようにしてみる、皆さんご自身の自己評価額なんです」(137頁)

モテないー、という単純な響きは、単純であるがゆえに残酷だ。(174頁)

「だって、悪意とかそういうのは、人に教えられるものじゃない。巻き込まれて、どうしようもなく悟るものじゃない。教えてもらえなかったって思うこと自体がナンセンスだよ」(183頁)

自分の一番高いパラメーターの数値ではなく、むしろ、一番低い数値から、相手を見る。ー婚活で、そういう人たちが結婚を決めていくのが、架にはよくわかる。(225頁)

そこに自分の意思や希望はないのに、好みやプライドとー小さな世界の自己愛があるから、自由になれない。いつまでも苦しい。(282頁)

おそらく彼は、ただ善良なのだ。善良で、真面目であるがゆえに、相手がそれをどう思うのかがわからない。朴念仁(ぼくねんじん)、という言葉が思い浮かぶ。(436頁)

 

上記にもいくつか取り上げましたが、

物語に登場する結婚相談所主宰の女性・小野里の言葉が、とにかく刺さりまくります。「ザ・ノンフィクション」に出演されていた婚活カウンセラーの植草美幸さんを彷彿とさせる描写です。

「ささやかな幸せを望むだけ、と言いながら、皆さん、ご自分につけていらっしゃる値段は相当お高いですよ。ピンとくる、こないの感覚は、相手を鏡のようにしてみる、皆さんご自身の自己評価額なんです」

…この小野里氏の言葉、すごく心を抉ってきます。「ピンとくる」とか「ピンとこない」って日常でもよく使う言葉ですが、意識してみると「格付け」の意識を孕んだ発言です。「ピンとこない」と言う時、その奥には「私の値段はこんなに安くない。これは私には見合わない」と見下す気持ちが隠れている。それを他者に対して発することの、傲慢さ。

 

「共に生きる他者を選ぶ」つまり「人生を選ぶ」作業が婚活なら、それは深く深く自分自身を覗き込む作業でもある。他者を鏡のようにして、「無自覚の傲慢さ」と向き合うことでもある。

 

お片付けブログなのでちょっと無理矢理に関連づけて結論を述べると、

婚活と片付けの共通点は「他者(モノ)と向き合う作業でありつつ、自分と向き合う作業」だという点。どんな相手(モノや空間)と、どんな暮らしがしたいのかービジョンを持たなければ、選び取ることはできません。

 

自分の中にある「傲慢さ」と「善良さ(世間知らずや無知ともいえる)」と正面から向き合い、未来を選ぶこと。既婚か未婚か、婚活しているかしていないかに関わらず、感じることの多い小説「傲慢と善良」。おすすめの1冊です。