気に入らないことがあるとあからさまに不機嫌になったり、他者への共感が異常に薄かったり、非を指摘されると攻撃的になったり、意固地になって絶対に謝らなかったり…。
あなたの周囲に、そんな「モラハラ気質の友人」はいませんか?
収納しない系お片付けブロガーの優多(ゆた)です。
冒頭に叙述したような行動特性を持つ「自己愛性パーソナリティー障害」をテーマにした傑作ミステリーを紹介させてください。
※一部ネタバレを含みますので、まっさらな状態で読みたいという方はご注意を!
「怖いトモダチ」(岡部えつ著/KADOKAWA・1,595円税込)
小説版(右手前)が非常に面白かったので、コミカライズ版(原作:岡部えつ、漫画:やまもとりえ/1,485円税込)も追加購入しました。
あらすじは以下▽
合言葉は「みんなで幸せになろう」。人気エッセイスト・中井ルミンが主宰するオンラインサロンには彼女を慕う大勢のファンが集まる。子どもの学校の担任との不和、義理の姉との確執、悩みに寄り添ってくれるルミンは尊敬できて、魅力的な存在。だけど何か違和感がある…。ルミンがブログに綴るのは、中学時代の同級生のSちゃんとの思い出。酪農家の娘Sちゃんは同級生から「牛の糞臭い」とからかわれ不登校になり、そんな同級生たちをルミンが嗜め、彼女の発案でSちゃんに手紙を渡し学校に来るようになったという話。そのブログをたまたま目にした旧友がいた。「このブログ…うそばっかり。だって沙世ちゃんあの次の日、自殺未遂を起こしたのに…」。サロンのメンバー、同級生や元夫、仕事仲間、流民をめぐる様々な人の思惑と言い分が交錯するコミックエッセイ。彼女は「いい人」? それとも「悪魔」? 本当のことを言っているのは一体誰なのかー?(KADOKAWA公式サイトのコミカライズ版ページより引用)
ストーリーは「関係者への聞き取り」の形で進行します。
「あの人はカリスマ性がある反面、ものすごく傷つきやすい人」
「うちの家族はまだ、あの人に心を操られたままなんです」
「綺麗な人でしょう?心はもっと美しいんだよ。ほんと、憧れの人」…
中井ルミンをめぐる16人の言い分は、それぞれに大きく食い違い、読み進めるほどに謎が深まっていきます。
怖いのは、ルミンの言動に「違和感」を感じた人が本人にそれを伝えると、ルミンから「敵」と認定され謝罪を求められたり、周囲から孤立させられたりすること。
ルミンは巧妙に立ち振る舞うことで「被害者ポジション」を確保し、自分に批判的だったり自分より注目を集めていたりする人を、「加害者ポジション」に追いやったりグループから排除したりします。非常に有害な人格でありつつも、こうした「人間関係を操る能力」に長けているので本当にタチが悪いのです。
本書の中盤に、「自己愛性パーソナリティー障害」について解説する「恋愛系ユーチューバーのチャコ」が登場します。チャコ自身もルミンの重要関係者の一人であることが仄めかされ、証言者たちの食い違う証言についての謎がつながっていきます。
チャコは、自己愛性パーソナリティー障害に大きく関わっているのが「自尊心」だと強調します。
自尊心とは、自分自身を大切にする気持ちのこと。
彼ら(自己愛性パーソナリティー障害のある人)はもともと異常に自尊心が小さく、そして傷つきやすい人物である。そのため、自分が傷つかないための自己防衛として、無視したり攻撃したり不機嫌になったりといった問題行動を無意識にとっているー。チャコは、そう指摘します。
チャコの印象的なセリフを引用します▽
彼らは、自分自身では、自分の自尊心を保てないんです。他人に褒めてもらう、他人に気遣ってもらう、他人にちやほやされる、他人を思い通りに操る、他人を服従させる、などなどなど、そうやって他人を利用しないと、自分が保てないんです。
(岡部えつ著「怖いトモダチ」176頁より引用)
私がこの本に心を揺さぶられた理由の一つに、過去記事にも記していた「幼馴染のSちゃん」のことがあります▽
わざと私を仲間外れにしたり、マウントを取ったり、急に不機嫌になって黙り込んだり。かと思えば腕を絡ませて過剰なスキンシップで甘えてきたり。
Sちゃんの言動に振り回されていた小中学校時代を、距離を置いて客観的に捉え直してみると、ルミンとは程度の差こそあれ、Sちゃんも軽症の「自己愛性パーソナリティー障害」だったのかもしれません。
そして、先述のチャコのセリフを読んだ時、「ああそうか、あの頃の息が詰まるような居心地の悪さは、私のせいじゃなかったのだ」と少し肩の荷が下りたような気持ちになりました。
では、こうした自己愛性パーソナリティー障害を抱える人物が身近にいた場合の対処法はあるのでしょうか。
私の場合は、進学を機に物理的な距離を取ることでSちゃんから逃れることができましたが、こうした性質の方は批判もアドバイスも「攻撃」と捉える傾向にあります。相手に改善を期待することは難しいでしょう。
結局は、「怖いトモダチ」からは「逃げる」「距離を置く」ことしかないのだと思います。
違和感を感じたら、刺激せずにそっと離れる。他者への共感が乏しい人物に対しては、行動の改善を求める常識的なアドバイスも逆効果となる可能性が高い。それどころかアドバイスを「攻撃」とみなして、こちらに危害を加えてくることも大いに考えられます。
深入りしない、関わらない。このネガティブな行動こそが、モラハラ気質の友人から身を守るための最善の防御策なのだと思います。
危機察知センサーを磨いて、違和感があったらサッと離れましょう▽
KADOKAWAの公式サイトで「怖いトモダチ」の小説版とコミカライズ版の試し読みもできるようなので、ご興味ある方は是非▽
「こういう問題を抱える人物が実在する」と認識することで、そして己の中にもねじれた「自己愛」や「自尊心」があるかもしれないと自戒することで、ある種の救いが生まれるような気がします。
「モラハラ気質の友人」に悩んでいる方がいましたら、ぜひ手に取ってみてほしい1冊です。